『明後日はいよいよ全国大会だよな!一緒に頑張ろうな!!』
そう話したのは、昨日の夜の電話だった。
大石だっていつもみたいに
『あぁそうだな。頑張ろうな』
って言ってたのに・・・・
なのに・・・何なんだ・・・この試合?!
何で大石が手塚とレギュラーをかけた試合なんてすんだよ!!
手塚が戻ってきて、明日からは全国大会って事で、すみれちゃんが全国で戦うレギュラーを決める試合をするって話をしだした時に、大石がその話を止めた。
「ちょっと待って下さい・・・」
どうしたんだよ・・・大石?
そう思ったのも束の間、横にいた筈の大石が前に出て手塚の怪我の事で試合を申し込んでいる。
それを聞いた俺は思わず声を上げて驚いた。
「ちょっと大石 何考えてんだよ!! 正気か!?」
なのに大石の奴は、俺の方を全く見ないで試合を初めてしまった。
みんなは勝手に大石と手塚の試合の予想を立て始めて、俺は何がなんだかわかんないまま食い入るように試合を見守っていた。
だけど結果は・・・みんなの予想通り・・・6−0で手塚の勝利
何だよ大石?何が最強のメンバーなんだよ?
お前が外れたメンバーの何処が最強なんだよ?
言いたいことが山ほどあるのに、試合が終わってコートから出てきた大石と手塚はすみれちゃんと話し込んでいて終わりそうに無い。
他の部員は解散になって、おのおの片付けやら着替えをし始めた。
俺は暫く様子を見た後、先に着替えて大石を待ち構える事にした。
こんな話・・・認めない・・・
認めれるわけないじゃんか・・・
部室に戻ってイライラしながら着替えてると、桃が話しかけてきた。
「英二先輩・・・・その・・・スンマセン」
俺に頭を下げる桃・・・桃が俺に気を使ってくれてるのはわかる。
大石が手塚のレギュラー復帰をかけた試合をするって話た時も
『代役でレギュラーとして試合に出させてもらってたんだし・・・俺が・・・』
俺が外れますって言おうとしてた。
だけどその時に大石が『桃・・・出たいんだろ?無理をするな』って言ったんだ。
チクショー!!!大石の奴・・・
「何カッコつけてんだよ!!!」
〈バンッ〉
思わずロッカーの戸をおもいっきり殴って叫んでいた。
「本当にスンマセンでしたー!!」
桃の事を言った訳じゃないけど、桃は自分の事を言われたと思って更に頭を下げている。
それを見かねた不二が俺の名前を呼んだ。
「英二!」
わかってる・・・わかってるけど・・・今は何もかもがムカつく
自分の感情が抑えらんない。
だけど頭を下げ続ける桃をほっておく事も出来なくて何とか声をかけた。
「桃の事じゃないから・・・桃は謝んなくていいから・・・」
イライラしてたから、声は怒ってる様に聞こえたかもしんないけど、それが俺の精一杯だった。
クソッ!!大石の奴!!
部室にいた連中も着替えが終わった順番に部室から出て行く。
俺も着替え終わったけど、まだ部室にも戻ってこない大石をジッと待った。
なんだよ・・・早くしろよ・・・まだ終わんないのかよ・・・・
みんないなくなって、俺1人になった頃、ようやく大石と手塚が戻ってきた。
大石は入って来た時にチラッと俺の方を見たっきり、その後は全く俺の方を見ないで手塚とまた話し込んでる。
何無視してくれてんだよ・・・
大石の態度が更に俺のイライラを増幅させて、俺はそんな大石をずっと睨んでいた。
大石の奴・・・大石の奴・・・大石の奴・・・・
俺が待ってるのわかってて、その態度かよ!!
余りにも長い二人の話に割って入ろうかと思った時に、窓の外の人影に気付いた。
不二・・・・?
外にいる不二と目が合うと、不二は俺に手招きをする。
何・・・?今、大石待ってんだけど・・・
目で訴えたけど、それでも不二は手招きをしてくる。
目の前の大石と手塚の話はまだ終わりそうに無い・・・
不二はずっと手招きしている・・・
イライラは全然収まらないし、大石の事は凄く気になるけど、外の不二も気になってきた。
もうっ!!ったく・・・・わかったよ
俺は一旦部室を出る事にした。
「何だよ不二。俺、大石待ってて忙しいんだけど」
不二は出てきた俺に笑顔を向ける。
「忙しくはないでしょ。待ってるだけなのに」
「気持ちが忙しないんだよ!!」
ブスッとした顔で言っても、不二は全然堪えてないみたいで『そう』と聞き流した。
俺は不二を睨みつけながらここからは移動しないぞっと部室の前で話を促す。
「それで、俺に何の話?」
不二は一旦周りを確かめた後、小さく溜息をついた。
「大石があんな事をしたのは、僕にも少なからず責任があるから、英二にはちゃんと話して置きたいと思って・・・」
俺はてっきり、さっき桃に当った事で釘を指されるのかと思ってたんだけど・・・
大石があんな事をしたのはって・・・さっきの試合の事だよな・・・?
不二はその理由、知ってんのか・・・?
「何っ?大石があんな試合した理由知ってんの!?」
不二に詰め寄って、顔を覗きこむ。
不二は『落ち着いて』って俺の胸を押したけど、こんな時に落ち着いてなんかいられない!
「何でなんだ?早く教えてよ!!」
大石が出てくるまでに、話を聞いておきたい。
俺は不二を急かした。
「うん。わかったから・・・少しだけ離れて・・・」
不二に言われて、少しだけ距離をとる。
それを確認して、不二が話し始めた。
「時間が無いから、簡潔に言うね。英二も気付いていたと思うけど・・・
手塚は大石が好きだったんだ・・・」
「!!!!!!」
手塚が・・・大石を・・・そう思った事は何度もあって・・・
やきもち妬いた事もあって・・・だけど・・・
まさか不二から決定的な言葉を聞かされるなんて思わなかった。
手塚が大石を・・・・好き
もうその事だけで頭がパニックになりそうで、危うく自分を見失うとこだった。
心臓がドキドキして、耳も痛い・・・
だけど不二の話は続いてる。
ちゃんと聞かなきゃ・・・・だってこの話は大石のレギュラー落ちと何か関係があるんだ
俺は歯を食い縛って、ジッと不二の目を見て不二の話の続きを待った。
不二は真面目な顔つきで、小さく頷いた様に見えた。
「それで九州に発つ前に大石に告白しに行って、手塚はフラレて・・・
大石はふった事を気にして、こうなったって事かな」
最後までちゃんと聞かなきゃって思ったけど・・・
手塚が大石を好きで・・・告白・・・?
何だよそれ・・・
「何だよ!俺、そんな事大石から一言も聞いてない!」
少し離れていた不二との距離をまた縮める。
不二は両手で俺をガードしながら答えた。
「そりゃあそんな事言えないんじゃない。それに大石は手塚じゃなく英二を選んだ訳だし
彼としては恋人に余計な不安や心配はかけたくなかったって事だったんだと思うよ。」
「そんなの・・・こんな事になるんだったら一緒じゃんか」
「まぁ・・・それが大石の甘いところって事かな」
不二が微笑む・・・
甘いところってなんだよ。もう訳わかんないよ。
それに手塚だって・・・
「大体なんで手塚は今頃大石に告白すんだよ!」
「そうだね・・・手塚だって英二がいる事はわかっていたし、本来なら告白する気なんて無かったと思うけど」
「けど何だよ!何か知ってんだろ?」
「うん」
不二が苦笑する。そして一呼吸おいて答えた。
「僕が手塚をけしかけたからかな『大石にフラレた方がいい』って・・・」
「なっ!!何だよそれ!何でそんな事言うんだよ!!」
不二がわかんない・・・
ずっと味方だと思っていたのに、大石に手塚をふっかけるなんて・・・
なんで不二がそんな事すんだよ?
俺の頭の中は大混乱で、気付いたら不二の胸倉を掴んでいた。
不二は胸倉を掴んでる俺の腕に手を乗せて、小さく微笑んだ。
「・・・・そうだね。僕が大石に嫉妬したからかな」
「えっ・・?」
「英二・・・。今まで言えなかったけど・・・僕、手塚の事が好きなんだ」
「えぇ!!」
不二が手塚を?
1年の時から同じクラスで、ずっと一緒の不二
優しくて、強くて、ハッキリしてて、困った時にはいつも力になってくれた
俺の大切な親友
その不二が大石に嫉妬したって?
手塚が好き・・だって?
今までも不二には好きな奴いないのかな?って思ったこと何度もあったけど・・
まさか手塚だったなんて・・・
俺は不二の胸倉を掴んでいた手を離し、不二を見つめた。
「いつから・・?」
「1年の時から・・・」
「何で言わないんだよ」
「ごめん。言えなかった・・・誰にも・・・言わないつもりだった」
淡々と質問する俺。不二はそんな俺に誠実に答えてくれた。
「手塚は知ってるのか?」
「うん。手塚をけしかけた時にね・・・だから手塚が大石に告白しに行ったんだよ」
「不二が手塚を好きって事を知って、なんで手塚が大石に告白すんだよ」
「ケジメをね・・・つけに行ってくれたみたい」
「不二の為に?」
「自分の為ってのもあるけど、僕の事も含まれてる・・・かな」
不二は遠慮がちに首を傾げて微笑む。
そっか・・・
そうなんだ・・・・
不二と手塚が・・・・そんな事になってたんだ・・・
何だかよくわかんないって事が少しづつ見えてきて、顔が自然と綻んだ。
「やったじゃん!不二!!」
不二の背中を叩いて、肩を組む。
1年の時から想ってて、それに手塚が応えたって事なんだよな?
それってめちゃくちゃめでたいじゃんか!
俺は素直に嬉しくて、不二の肩をブンブン揺らした。
「ちょっと英二。喜んでくれるのは嬉しいけど、僕達まだ付き合ったわけじゃないから・・」
「えっ?そうなの?」
揺らしていた手を止めて不二を見る。
「たぶん・・・」
「何だよそれ!不二は好きって伝えたんだろ?それに手塚は応えたんじゃないのか?」
「うん・・。そうなんだけど・・・」
「じゃあ一緒じゃん!もっと喜ぼうぜ!!」
「喜ぼうって・・・英二。今はそれどころじゃないでしょ」
「あっ!」
そうだった・・・不二の想いが通じたって事が凄く嬉しくて・・・
すっかり忘れてた・・・大石の事
だけど不二の話を聞いたお陰で大体の事が見えてきた・・・
大石の奴が考えそうなこと・・・・あの八方美人め!!
俺は不二の肩から腕を退けて、部室を睨んだ。
「そうだな不二。教えてくれてあんがと。後は大石と話をするから」
「そうだね。後は大石とよく話をしてみて・・・じゃあ僕は行くから・・・
また明日・・・会場でね」
「うん。また明日。ホントにあんがと不二」
不二と別れて、俺は部室のドアの前にあるコートフェンスにもたれかかって腕を組んで考えた。
不二の話はよくわかった。
不二がずっと想い続けてきた人とうまくいってるのなら・・・
親友としてこんなに嬉しい事は無い。
ただ相手が手塚って言うのは気になるけど・・・手塚は大石との事があるかんな・・・
だけどその手塚も不二の気持ちに応えて、不二とうまくいってるんなら・・・
やっぱそれにこした事は無いよな。
問題は大石だよ・・・アイツ・・・
アイツの考えそうな事はわかる。
どうせ手塚をフッた事で、せめて俺の出来る事ぐらいは手塚にしてやろう・・・
とかそんな事なんだろう。
だけどそれって、どうなんだ?
もうその時点で俺の事・・・裏切ってるよな?
手塚じゃなく俺を選んでくれたのは嬉しいけど・・・
だからってレギュラーを降りてもいいって事にはならない。
そんな事したら、1年の時からずっと頑張ってきた俺達のダブルスは・・・
全国No.1ダブルスになる夢は消えちゃうじゃんか・・・
大石の真面目なとことか、責任感の強いとことか、全部好きだけど
こんなとこで発揮すんなよ。
お前ズルイよ・・・
いつでも、どんな事でも俺の事選んでよ。
大石のバカ・・・
なんか考えてたら、目頭が熱くなってきた。
まだ大石と何も話してないのに・・・・ちゃんと話すまで、泣いちゃ駄目だ・・・
俺は自分に言い聞かせて、まだ出てこない部室のドアを見た。
するとようやくドアが開いて、中から人が出てくる。
大石?
と思ったら、出てきたのは手塚だった。
手塚とは一瞬目があった気がするけど、俺は手塚から目線を外して、その後に続いて出てくるであろう大石を待った。
なのに大石は出てこない。手塚はそのまま帰ってしまった。
『あれ?大石は?』俺ちゃんと見てたよな?大石まだ出てきてないよな?
ずっとドアの前にいた筈なのに・・・・
不安がよぎった時に、ようやく大石が出てきた。
大石っ!!!
ドアから出てきた大石と目があった瞬間に、俺は大石に駆け寄っていた。
「どう言う事だよ大石」
胸倉を掴んで詰め寄る。
「どう言う事だって言ってんだよ!!」
「英二・・・すまない・・・」
すまない・・・だって、そんな事で許されるなんて思っているのか?
言い訳の1つくらいしろよ!
「そんな事を聞いてんじゃねーよ!!さっきの試合は何なんだよ!!」
「もう・・・決めた事だから・・・」
こいつ・・・言わないつもりなんだ・・・手塚の事・・・
何でレギュラーを降りる事にしたのか・・・ホントの理由
俺は悔しくて歯軋りしながら、とうとう涙を流してしまった。
「何が決まったって?何1人で決めてんだよ!俺達ダブルスだろ?右腕の事だって何で言わないんだよ!
俺達ずっと一緒にいたよな?なのに・・・俺の事信用してないのか?」
「そんなんじゃない!信用してない訳じゃない・・・だけど優勝を狙う為には・・・
俺の右腕じゃ駄目だ。英二の足を引っ張る。それに英二はもう誰とペアを組んでもいけるよ」
何でだよ・・・じぁや隠し事すんなよ・・・
腕の事だって、手塚の事だって話してくれれば、一緒に考える事だって出来たのに・・・
大石はいつだって肝心な時に俺の事頼ってくんないんだ。
それに俺は誰とペアを組んでもいけるって・・・馬鹿にしてんのか・・?
同じ事・・・・何度言わせんだよ!
「何だよそれ・・・誰とペアを組んでもいける?俺言ったよな・・・前にちゃんと言ったよな・・・
大石とじゃなきゃもうダブルスやんないって言ったよな!!!」
「英二・・・わかってくれ・・・」
「わかる訳ねーだろ!!何の為に今まで頑張って来たんだよ!!
一緒に全国No.1ダブルスペアになるんじゃなかったのか?お前は俺に嘘をついてたのかよ?!」
「そんなっ!!嘘じゃない!!嘘をつくわけないだろ!!だけど・・・」
大石が言葉を無くした。
何だよ、ちゃんと言ってくれよ。
ちゃんと言ってくんなきゃわかんないじゃんか・・・
大石・・・
「もういーよ!!もうわかった!!大石なんて知らない!!大石がそんな勝手に決めるんだったら・・・
俺だって勝手に決めてやる!!俺出ないからな!!明日の試合も・・・
これからも・・・ずっと試合に出ないからな・・大石の大バカヤロウ!!!」
俺は大石を思いっきり突き飛ばして、全速力で走りだした。
「英二っ!!ちょっと待てって!!」
大石はバランスを崩しながら、俺の事を呼び止めていたけど・・・そんなの知らない。
俺は振り返らずに、ただ前だけ見つめて走った。
後編突入・・・英二怒ってます☆
まぁ・・・怒りますよね・・・・
って事で・・・残すは・・・あと1ページ